ビジネスパーソンの皆様は、新規事業を提案したり、新製品開発を提案したり、工場新設などの大型投資を提案する機会があると思います。大きなお金を使わせて下さい、というときですね。そのようなときに、まずは「それは儲かるのか」ということを問われますが、次に良く問われるのか「あなたの提案している〇〇〇の競争優位性は何か」ではないかと思います。競争優位性は「なぜ儲かるのか」の答えにもなるので、問われるのか当然と言えば当然なのですが、ご納得頂ける回答を用意するのは、私の経験からも結構難しいと感じています。
私はこの「競争優位性」についての悩みはいつも持っていて、今の考えとしましては、企業事例を使って「競争優位性」について考えて、自分の「引き出しを増やしていく」ことが重要である、というのが今現在の考えであります。このブログでは、「現場実務で活かす競争優位性の研究」と題して、私達が現場実務で使える「学び」をわかりやすく整理し、お届けしていきたいと思っています。
「競争優位性」を切り口とした記号事例を積み重ねていって、皆さんが「競争優位性」で困られたときに、一つの「事例集」として使って頂けるようなエントリーを目指していきたいと思っています。今回は第一回で、皆さんおなじみに「ユニクロ(ファーストリティリング)」を事例に、競争優位性について考えていきたいと思います。
ユニクロの歴史 ~初期から爆発的成長期~
今回ユニクロを事例として取り上げますが、私が競争優位性について考える重要なポイントが凝縮されているように思います。ユニクロは、1949年に、柳井正会長のお父様が山口県で創業された紳士服店「小郡商事」を創業され、1972年に柳井会長が「小郡商事」に入社されたところからスタートしているのは有名なお話ですが、今回はユニクロの原型となる初期(1984年~)から、フリース旋風で爆発的成長となった2000年ぐらいまでの時期を取り上げたいと思っています。下記のURLでユニクロの歴史が書かれていますので、是非ご覧頂ければと思います。
ユニクロの原点 ~カジュアルウェアの徹底的追及~
ユニクロの歴史を「競争優位性」の観点で見ていきたいのですが、初期は「カジュアルウェアの世界で、デザイン性が高く、高機能で、低価格の衣料を提供する」、これを競争優位性として走っていて、そこまで新規性は無いように感じます。ですが、当時(1985年~1992年ぐらい)を振り返ると、当時はバブルの時代で、フォーマルウエアと言いますか「よそ行き」の服はもうそれは一流ブランドがブイブイ言わせて、派手派手な時期でありましたが、カジュアルウェア、特にインアーウェアは「スーパーの2階の衣料品売場」で買うような世界で、ババシャツやステテコのような世界だったと思います。この「ババシャツ」「ステテコ」は、今や絶滅危惧種となりつつありますが(まだ根強い支持はございますかね。。)、インナーの世界でも「デザイン・高機能・低コスト」を打ち出し、今では「ヒートテック」ですよね。簡単な比較の図を載せておきます。時代は変わりました。いや、ユニクロが変えたんだと思います。
このインナーウェア含む「カジュアルウェア」の世界で「デザイン・高品質・低価格」というアプローチは、新規性は無いものの、競争優位性はあると言えるのでは、と思います。
ユニクロの競争優位性を語るときに、SPA(製造小売業)の話が良く出てきますが、SPAはこのデザイン・高機能・低価格を徹底追及するための手段としてSPAがある、という感じで、このSPAも最初から考えていたわけではなく、後での「気づき」として出てきた手法のように見えますね。
ユニクロの爆発的成長期 ~部品としての服~
ユニクロは、最初のコンセプトである「カジュアルウェアの世界で、デザイン・高品質・低価格」は、当時の市場環境も相まって成功をおさめ、ユニクロは主に西日本エリアを中心に成長していくのですが、その成長過程の中で「部品としての服」という言葉が出てきています。
これは何かといいますと、一流ブランド品と一緒に来ても違和感が無い服、一流ブランドの下(アンダー)で着る服として、ユニクロは提案していった、ということであります。現在のユニクロは、よそ行きでの一番上(アウター)で着る服も多く出していますが、当時はそうではなく、よそ行きの場合は下で着る服、一番上あったとしても家での普段着レベルであった、ということであります。2000年に1,900円のフリースが爆発的に流行するのですが、あれは一番上では無く、モンクレールやパタゴニア、ノースフェイスなどの一流ブランド品のダウンジャケットの「下」に着る服であり、一番上(アウター)で着るとしても、家の中か、せいぜい犬の散歩で近所に行くぐらいのとき、ぐらいだったと思います。
現在のユニクロのIR資料などを見ますと、「ライフウェア(Life Wear)」という言葉でコンセプトが表現されています。これは「カジュアルウェア」という初期からの考え方と、「部品としての服」という、その後出てきた考え方の両軸で考えられており、この「ライフウェア(Life Wear)」というコンセプトは、後から生まれてきたんだ、ということなんですね。このユニクロのコンセプトの変化・発展をマトリックスで書いてみると、こういうことかな、と私は考えています。
ユニクロから学ぶ競争優位性4つの観点 ~①新規性・革新性は必要ない~
ユニクロの初期のコンセプトは、「カジュアルウェアでデザイン・高品質・低価格」だったと述べてきました。ここからコンセプト自身も発展していくのですが、このコンセプト自身に「革新性・新規性」はあまり感じられないと思います。ユニクロは、あくまで「顧客」を見つめ続け、これが顧客に求められており、競争優位性として成立する、と考えたんだと思います。顧客のニーズ(これは時には潜在的かもしれません)を捉えていれば、競争優位性自体に過度な新規性・革新性は必要ないんだ、ということを改めて気づかせてくれますね。
ユニクロから学ぶ競争優位性4つの観点 ~②「どこで戦うか」が最重要~
ユニクロの「競争優位性」を見ると、「カジュアルウェアという市場」に着目しているところが重要であり、成功要因の一つだと思います。一流ブランドとの競争は選択していない、むしろ「共存していく」ことを考えている、ということですよね。私もそうなのですが、「競争優位性」を考えるときに、製品やサービスに機能を付け加えたり、コスト競争力を考えたりしがちなのです。その前に「そもそもどこで戦うんだったっけ」という問いを、自分に改めて問うてみる、ということの重要性を、ユニクロは気づかせてくれます。
ユニクロから学ぶ競争優位性4つの観点 ~③競争優位性は「組み合わせ」で成立~
上記に、競争優位性は「どこで戦うか=ターゲット市場」が重要、と書いておりますが、ユニクロの競争優位性は、製品・サービスの機能だけでなく、「市場×製品・サービス」で成立していることがわかります。ここは非常に重要です。ここでご紹介したいのは、戦略の3要素で良く語られる「誰に・何を・どのように」という考え方です。競争優位性を考えるの当たり、これは使えるフレームワークですので、是非活用頂きたいと思います。ユニクロのケースに当てはめると、下記の図のようになります。少し述べましたが、「どのように=SPA」については、後で出てきた考え方ではあります。
ユニクロから学ぶ競争優位性4つの観点 ~④競争優位性は「磨かれ洗練される」~
今回私はこれを一番言いたいのですが、何かを始める時に、最初のスタートライン「競争優位性は何か」をめちゃくちゃ問われるのですが、最初の段階で、そんな完璧な「競争優位性」はありません、ということなんです。
ユニクロの事例で見ますと、最初から「Life Wear」「部品としての服」というコンセプト・競争優位性は無かったと思います。「カジュアルウェアで、デザイン・高機能・低価格」という競争優位性からスタートし、これを突き進める中で、実現の手段としての「SPA(製造小売業)」の気づきがあり、更に進む中で「部品としての服」というコンセプトを想起し、そして時間が経過する中で「Life Wear」という考え方に洗練されていった、ということなんですね。
ですので、私達ビジネスパーソンは、他社の模倣でもいいので、スタートラインで何とか次に進めるたに納得していただける「競争優位性」を考えて考えてひねり出して、とにかくスタートさせる、ということが何よりも重要なんだ、ということを強く訴えたいと思います。
また、皆さんの中には、誰かが何かを始めるときに「判断する・許可する」立場の方もおられると思います。その場合、スタートラインで過度に完璧な「競争優位性」を求めるのではなく、「まずはこの競争優位性でスタートを切るとして、ここで思考停止せず、事業を進める中での気づきを活かして、この競争優位性を磨いていって、洗練させていって下さい」という一言をかけてあげて欲しいのです。この一言を貰った実務担当者は、意気に感じで、プロジェクトを強力に進めてくれることでしょう。過度に「競争優位性がなっとらん」と言って、議論に過剰な時間をかけるのではなく、「これぐらいでスタートを切って、継続磨いていこう」という心構えが重要だと思います!
このような感じで、また別の事例で「競争優位性」について考えていき、皆さんのビジネスシーンで少しでもお役に立てればと思っております!
今回もお読み頂き、有難うございました。もし気に入って頂けましたら、是非SNSでのシェアを宜しくお願いします!
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