【実例あり】柔らかい経営理論 ~イノベーションは0→1なのか~

柔らかい経営理論

私は中小企業診断士として、一通りの経営理論を学んできました(薄くですが。。)。皆さんも書籍や、会社の研修なので、経営理論を学ばれたことだと思います。皆さんどうでしょうか。使ってますでしょうか。使えてますでしょうか。そもそも使えますか?使えなく無いですか?と私はずっと思っておりまして。。

そこで、「現場で実践!柔らかい経営理論」と題し、私自身が、学んだ経営理論を柔らかく解きほぐし、現場で実践しているやり方をお届けしていきたいと思います。今回は、よく取り上げられ、耳にする「イノベーション」という言葉について考えてみたいと思います。

イノベーション=「0から1を生む天才の大発明」と捉えられがちだからです。リニアモーターカー、量子コンピュータ、空飛ぶクルマ……。まるで映画のような光景が頭に浮かび、「そんなすごいこと、うちの会社じゃ無理」と早々に諦めモードに入る人も多いでしょう。 

でも本当にそれだけでしょうか?

 今回の「現場で実践!柔らかい経営理論」では、イノベーションを「0→1」だけに閉じ込めない視野を皆さんと共有したいと思います。そう、もっと身近な「1→10」「10→100」だって立派なイノベーション。むしろ多くの企業にとって、その方が現実的で再現性が高いのです。 

一般的なイノベーションの定義

まずは「イノベーションってそもそも何?」をおさらいしておきましょう。学術書やガイドラインを開くと山ほど定義が出てきますが、ここでは代表的な10個を噛み砕いて紹介します。箇条書きで読んでも「0→1」偏重ではないことが見えてくるはずです。

●シュンペーター(1911):技術や市場などの要素を「新しく結合」させること。           ●ドルフマン(1954):新アイデアを「商業化」し、経済価値を生むこと。            ●P・ドラッカー(1985):顧客に新しい価値をもたらす「体系的な活動」。              ●OECDオスロ・マニュアル(2005):製品・プロセス・マーケティング・組織のどこかで「新規性+実用性」があればOK。                                     ●クレイトン・クリステンセン(1997):主流企業が無視してきた顧客層へ価値を届ける「破壊的イノベーション」。                                       ●エリック・リース(2011/リーンスタートアップ):顧客学習を短サイクルで回し続け、「価値仮説」を素早く検証する仕組み。                                 ●マイケル・ポーター(1985):バリューチェーンの再構成によって競争優位をつくる。                    ●ISO 56002(2019):組織が「継続的に新たな価値を創出」する仕組みそのもの。                   ●経済産業省(2021/J-Startup):社会課題の解決と経済成長を同時に実現する新事業。                ●グロービスMBA(2022):人々の行動や常識を「上書き」する価値創造。

どうでしょう。必ずしも“最先端技術”がマストなわけではないですよね。むしろキーワードは「結合」「再構成」「新しい届け方」「人々の行動変容」。つまり―― 

既存の技術や製品を組み合わせてもイノベーションになる。                             ★0→1に限らず、1→10、10→100も立派なイノベーション。 

この広い定義を頭に入れたうえで、具体例を見ていくと、「イノベーション」の見方が変わってくると思います。。

対極にある2つの「イノベーション」

イノベーションの幅を実感いただくために、スケールも方法論も正反対に見える2つの事例を並べてみたいと思います。

●iPS細胞による再生医療――“世界的な科学技術ブレイクスルー”、“0→1”ど真ん中

 京都大学・山中伸弥教授が2006年に発表した「人間の皮膚や血液などの大細胞を培養し、様々な組織や臓器を作る技術」は、まさに人類未踏の0→1でした。臓器再生や難病治療の希望をもたらし、製薬・医療・保険・法規制などさまざまな領域に大きな波及効果を与えています。「医療の概念そのものを刷新した」という意味で、教科書に載る典型的イノベーションと言えると思います。

●ワンカップ大関――“下町の“1→日常×文化変革”

 さて、ガラス瓶に日本酒が入っただけの「ワンカップ大関」。これが生まれた経緯を丁寧に見ていきますと、その「取組の深さ」が見えてくると思います。

●大関10代社長・長部文治郎は、日本酒は徳利で出されるため、どのメーカーのお酒かがわからない。メーカーの顔が見える容器で日本酒を売れないか?と考えていた。                                          ●1964年発売――東京五輪の年、人々のレジャー機運が高まり「屋外で日本酒を飲みたい」という潜在ニーズが誕生。                                       ●徳利+お猪口が当たり前だった時代に「180mlガラス瓶+スクリューキャップ」という“飲み切り・持ち運び可”のスタイルを提案。                                 ●常温流通を可能にすることで酒販店・コンビニ・自販機へ販路を拡大。                   ●結果として「家飲み」「アウトドア」「仕事帰りに公園で一杯」など、新しい飲用シーンを創出。 

 技術的革新というよりは「日本酒の飲み方・体験の仕方」を変えた点がポイントですね。だからこそ、半世紀経った今もコンビニの棚に並び、今も愛されています。よくよく考えますと、この「ワンカップ大関」も「イノベーションである」と言えると私は思っています。   

このように、既存モノ×新しい使い方×新しい届け方=イノベーション、という図式が成り立つわけです。 「ワンカップ大関」のサクセスストーリーについては、是非下記のURLをご覧ください。熱いドラマがここにあります。。

One Cup Club ~こだわり~

「ユニクロ」はイノベーションなのか

 ワンカップ大関と似た文脈で、ユニクロ(ファーストリテイリング社)の「LifeWear」戦略を取り上げてみましょう。ユニクロはイノベーションと言えるのでしょうか

服の存在意義”を再定義                                  「デザイナーズブランド」や「トレンドファッション」を主戦場としない。あくまで“日常着をより快適に”という軸で「LifeWear」という新概念を打ち出しました。ヒートテック・エアリズム・ウルトラライトダウンなど、機能性を重視した商品群が暮らし方そのものを変えています。

サプライチェーン×SPAモデル                               SPA(一貫生産小売)自体は先行企業もいましたが、ユニクロが突出していたのは「グローバル生産+ITによる需要予測精度」です。高機能素材を“誰でも買える価格”で提供できる構造をつくり、アパレル業界の常識を塗り替えました。

圧倒的な「何とかなる感」=「服の民主化」                                      世の中には、ファッションに敏感な人も多くいらっしゃいますが、おそらく敏感ではない人のほうが圧倒的多数ではないでしょうか。そういう人は、ファッションに関する情報も持ち合わせておらず、また積極的に情報を取りに行くこともあまりしないでしょう。そういう人が近所のユニクロに行って、上から下までを一通り買い揃えば、ハイ、それなりの仕上がりのファッションが出来上がる。平日には冴えない私服のおばちゃんも、週末はゴルフウェアもどきの服ばかりのおっちゃんも、ユニクロにいけば「そこまでお金をかけずに何とかなる感」は、他のファッションメーカーには無い価値だと強く思います。

ユニクロを語るときに「服の民主化」という言葉が使われることがあります。ファッションというものが「一部のハイセンスな人だけのもの」だったのを、「万人にも手が届くもの」にした、という意味でも、他に類を見ないカテゴリーを生み出したとも言えますね。

 こう見ていくと、ユニクロもやはり「イノベーション」であると言えるでしょう。ユニクロのイノベーションは、技術新規性そのものよりも「価値の再定義」「サプライチェーン革新」「消費者行動の変化」の掛け算で生み出されたわけです。ここにも“1→10→100”型のヒントが詰まっていますね。

ユニクロについては、以前「競争優位性」の観点で書いたエントリーがありますので、是非参考にしてみて下さい!

最後に ~イノベーションは現場実務の気づきから~

ここまで読んで「ウチの会社でiPSやユニクロ級は無理」と思った方もいるかもしれません。ですが、イノベーションの芽は驚くほど身近な場所に転がっています。それを拾い上げられるかどうかは、現場で働く私たち一人ひとりにかかっています。                           どの企業にも、必ず「現場のアイデアマン(変人とも言う)」がいるはずです。たとえば――

●残業をして、どうしても自分が欲しいという思いで勝手に試作し、これを多くの人には語らず、内輪で盛り上がっている中堅の開発者。                                        ●顧客の使い方を観察し、「だったら別業界にも応用できる」とひらめき、飲み会で大きな声で説明しだす営業担当。                                                 ●毎回同じクレーム内容を見て「工程をここだけ変えれば減るのに」と気づき、週末に臨時出勤してこっそりとこれを試す品質管理スタッフ。                                       ●古い機械に勝手にセンサーを取り付け、稼働データを集め、ぶつぶつと何かを言い始めたベテラン技術者。 

こうした“常軌を逸した気づき”が芽を出すとき、組織全体で水や肥料を注げるかが勝負です。自分がアイデアを出す側ならもちろん旗を振るべきですが、もしそうでなくても「強烈なサポーター」になる道があります。

プロトタイピングに必要な社内リソースをかき集める                               ●顧客ヒアリングの場を設定してリアルなフィードバックを得る                            ●稟議書や予算申請など“土木工事”を代行し、発案者に実験へ集中してもらう 

サポーターが複数集まれば、0→1の「ひらめき」が1→10へ、10→100へと雪だるま式に拡張していきます。まさに「チームでつくるイノベーション」ですね。イノベーションは、一握りの天才の「ロマンチックな0→1」だけを指す言葉ではありません。iPS細胞のような科学的ブレイクスルーもあれば、ワンカップ大関やユニクロのように「既存×組合せ×再定義」で暮らしを変えるパターンもあります。 

だからこそ、今日の業務のなかで感じた「小さな違和感」や「お客様のちょっとした不便」を見逃さないでください。そして、その気づきを持つ仲間を見つけたら、ぜひ全力で支援してみてください。そこから始まる“1→10の改善”が、やがて“10→100の革新”へと化けるかもしれません。 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし参考になったら、ぜひSNSでシェアして頂けると嬉しいです!

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